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論理療法で吃音を受けとめる

受け止め方


吃音を持つことにより、時には悲しみ、焦り、落胆、不安に悩まされます。これらは人として抱く当然の感情であって、決して不自然なことではありません。大切なことは、出来事に対する歪められた受けとめ方によって、不適切なまでのゆううつ、絶望、自己嫌悪、怒り、焦りなどが心を支配しないように努力を払っていくことです。

3つの領域(自分、人々、状況・環境)での一般的なイラショナル・ビリーフ(非論理的考え方)を記してみます。

自分に対して

  1. 「私はどんなことがあっても絶対に立派にやらなければならない。そうでなければ、どうしようもない人間である。」というイラショナル・ビリーフを持っていると
    ⇒ 「私はどのような場合でも上手に話さなければならない。そうでなければどうしようもない人間である」と受けとめてしまいます。
  2. 「私は何度も失敗や過ちを犯してはならない。もし重要なことに失敗すれば、それは恐ろしいことである。」
    ⇒ 「私はどもって何度も失敗をしてはならない。大切な場で失敗すればそれは恐ろしいことである。」
  3. 「私は他の人に印象づけなければ、幸せになれない。」
    ⇒ 「どもると悪い印象を与えてしまうので、幸せになれない。」
  4. 「他の人がどう考えるかによって、自分の幸福が左右されてしまう。」
    ⇒ 「私の話し方の評価で、私の幸福が左右されてしまう。」
  5. 「私は、人の拒否、非難にあったから、ダメな人間である。」
    ⇒ 「私はどもることにより、人の拒否にあったからダメな人間である。」

このように考えると、自分が思っている程にできない場合、強度の不安、ゆううつ、焦りの原因となります。

相手や人々に対して

相手に対して


  1. 「あなた(人々)は、どんな状況においても、私を公平に、正当に、親切に思慮深く扱わなければならない。もし、そうでなければ、あなた(人々)はどうしようもない人間で、罪を受けて苦しむべきである」というイラショナル・ビリーフを持っていると、
    ⇒ 「人々は吃音の心理を理解し、思慮深く扱わなければならない。もしそうでなければあなた方に非がある」と受けとめてしまいます。
  2. 「あなた(人々)は私に対していつでも親切でなければならない。」
    ⇒ 「社会は吃音者をよく理解し親切でなければならない。」

このように考えると、吃音の理解のない社会・人々への不満、怒り、敵意の原因となります。

人生に関するもの(状況・環境に対して)

  1. 私が生きている状況は、私が望むとおりのものを、私が望む時に、いつでも与えてくれなければならない。
  2. どんな時も、この私に決して欲求不満を与えるべきではない。
  3. 状況は常に自分に有利に働くべきである。
  4. 自分にとって不都合なことは起こるべきではない。
  5. 状況はいつも良いものでなければならない。   
  6. どもりは誰かが治療してくれるべきだ。
  7.  

このように考えると、「私は吃音という不自由を持つことを受けいれたくないし耐えられない」ということになり、自己憐憫、イライラ、ムカムカに悩まされます。

ラショナル・ビリーフ(論理的考え)の例

例


  1. できることなら、立派にやりたいし、上手に話したい。私の今ある状況は、満足できるものであって欲しい。しかし、必ずしもそうでなくても良い。もし、私の思い通りにならなかったとしたら、それはとても残念だが、それで、この世の終わりという訳ではない。
  2. 話すことに不自由を感じている自分を認めていこう。また改善の地道な努力を払っていこう。自分をけなしたり、責めたり、自己卑下するようなことは決してしない。
  3. 社会に吃音の理解を求めることはやめよう。私としてベストを尽くしていけばそれで良いのだ。
  4. 私は今、吃音であるが、そのことで最悪なことは何もない。もし、私がじっくり考え、「~でなければならない」という考えを捨て、「~であるにこしたことはない」という考えに忠実に、柔軟に生きるなら、私は行き詰まることはない。

論理療法の実践報告

論理療法が話し方の改善につながった例をご紹介いたします。

Mさん(女性、31歳)とのスピーチレッスンを電話ではなく直接お会いしながら6ヶ月の間させていただきました。Mさんは吃音ではありませんが、人前で話すことにとても苦手意識を持っておられました。約30名程の方々の前で話をする実際のMさんの様子を拝見しましたが、特にことばがつまるというわけでもなく、何を問題にしておられるのか疑問に思うほどの普通の話し方でした。けれどもご本人がぜひスピーチのレッスンをという希望がありましたので、模擬演習をさせていただきました。予め話すことを考えてきてもらい、私の前で話すというやり方です。その中でMさんのスピーチに対する受け止め方にいくつかのイラショナルビリーフがあることがはっきりしてきました。

その一つは、「人前で話をするときは緊張すべきではない。緊張すると聴衆は不快感を持ってしまう。」というものです。自分が緊張して話すと、聴衆にその緊張感が伝わって不快感を与えてしまうという考えです。実際に人前で話をしてみればお分かりの通り、誰でも緊張感を伴うものですが、彼女は「リラックスして話すべき」という考えにとらわれているようでした。
緊張することは決して悪いことではありません。むしろ反対に馴れ馴れしい態度で話をするほうが不快感を与えるもので、話し手の緊張感は真剣さ、誠意、誠実な努力姿勢などのプラスの印象を与えるものです。ですから、「人前で話をするとき、過度な緊張をしないに越したことはない。」というラショナルビリーフにチェンジして、適度に緊張していいのだという考えが心に浸透するようにしていきました。

また、レッスンの初めの段階では「人前に立つと心の中まで見られているように感じる」とも話され、何かと自分を否定的に見る傾向がありました。しかし「自分は自分、これがいいんだ」という自己肯定感が深まるに従い、他人に心を「見られている」という意識から「そのままの私です。別に装ってはいませんよ。どうぞごらんください」という雰囲気を漂わすまでの心の余裕が出てきました。

その後、50名程の人々の前でスピーチをなさいましたが、話し方の向上だけではなく、ご自分の人生そのものを肯定していく、そんな彼女の姿勢に感動しました。

長年受け止めてきたイラショナルビリーフは簡単に変らない場合もあります。「そうは言ってもね・・」がつい浮かんできます。ですからご本人が何度も何度もラショナルビリーフを心の中で繰り返し、このような意識の反芻が論理用法を上手に使うコツのようです。実際にラショナルビリーフに入れ替え続けると感情も変化してくるのです。実践をお勧めします。